職業:消防士
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫

酒屋で、1人の男が静かに立ち呑みをしている。その時、けたたましく半鐘(はんしょう)が鳴らされた。「火事だ!」と声高に叫んで人々が火元の方角に走って行く。
男は「親爺(おやじ)、勘定をしてくれ」と言って精算し、そそくさと店を出て行こうとする。親爺が「火消の方ですか」と声を掛けると男「いや、わしの色女(いろ)が火消の嬶だ」。
火事と喧嘩(けんか)は江戸の華――と言われるぐらい、火事は江戸の町の名物(?)だった。家屋が密集しているので、火が出ると大火になりやすい。振袖火事と言われた明暦の大火(1657年)や、八百屋お七で知られる天和の大火(1683年)など、数多くの大火が大江戸八百八町の広い街街を焼き尽くした。
江戸幕府は、若年寄直属の旗本や御家人を主体とした「火消組」を1658年に設置した。与力6騎(馬に乗った役人)、同心30人、火消人夫数名が屋敷に定住する「定(じょう)火消」と、大名が各自の藩邸(上屋敷・中屋敷・下屋敷など)の出火の消火に当たる「大名火消」で、江戸の町を火事から守ろうと腐心した。
また1718年、江戸町奉行・大岡越前守忠相の主導で、町人が自主的に消防に従事する「町火消」も発足させた。いろは47組を編成し、江戸の町にくまなく配置した。町火消は後に1組増えて48組になった。
この仕事に従事する人を鳶(とび)の者と称した。鳶口(とびくち)と呼ばれた、棒の先に鳶の口端のような鉄製の鉤(かぎ)をつけた道具を持つことからその名前が付いた。鳶口は物をひっかけたり運んだり壊したりするのに用いた。
仕事柄、威勢が良く気性の荒い人が多く、江戸末期に起った鳶の者と力士が衝突して負傷者99人を出した「め組の喧嘩」は、講談や歌舞伎に脚色されて、現代人にも記憶に残る。
明治初年に、これらの組織は警察行政の一部とされたが、第2次大戦後に独立して独自の体制を確立した。消防以外にも救急救命も主要な分野になった。それから、恋の火以外の消火に専念している。
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