職業:松茸屋
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫

「マツタケー」と声を張り上げ「松茸売り」が町内にやって来た。客の1人が「その傘の開いたの、いくらや」と問うと松茸屋「へえ、百匁(もんめ、1匁3.75g)500円です」と答える。「こっちの虫の食った小さいのは」「百匁500円です」。「ほな、この大振りのは」「それも百匁500円です」。「大きいのも小さいのも、同じ値段とはおかしいやないか」と客が訝(いぶか)ると、松茸売り「松茸は皆突っ込みでおます」
松茸は、松の子ではない。赤松や黒松、蝦夷(えぞ)松、それに椴(とど)末などの根方に生えるが、栂(つが、とがとも)や白ビソなどの林にも生える。つまり、松とは共生関係にある。
日本以外には朝鮮半島、沿海州(ロシア、シベリアなど)、サハリンなどに分布する。日本では、京都府、岡山県、広島県が特に有名な産地だ。
これらの産地からの生産量が少ないので、今では韓国や中国、カナダなどからも輸入しているが、それでも需要に追いつかず高額な品となっている。庶民にとって「高嶺の花」であり「高値の花」である。
そんなわけで、松茸は茸の王様として君臨している。
茸の中にも食用になるものと毒を含むものがあり、死に至ることがあるので注意を要する。食用になる茸としては、松茸を筆頭に、栽培に適し干物で知られる椎(しい)茸、藍(あい)茸の別称がある初茸、株となって発生する湿地(しめじ)、滑(なめ)茸とか滑子の異称を持つ榎(えのき)茸、舞姿を連想させる舞茸、さらに畑地に生える原茸、湿地に似た平茸などがある。
反対に食べられない茸は、蠅取り茸とも言う猛毒の天狗茸と紅天狗茸、食べると笑いが止まらない笑い茸、死に至る毒鶴(どくつる)茸、平茸と間違えられる月夜茸、湿地に似るも1本ずつ生える一本湿地、比較的毒性の少ない毒紅茸、それに苦栗(にがくり)茸などがある。
見た目に美しい茸は毒を含むと思ってよい。この原則は、茸に限ったことではなく、鼻の下の長い男性は心する鉄則である。
因みに、冒頭の落語のオチの「突っ込み」は、これら鼻下長族の特技である。
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