所在地:西成区山王1丁目10
写真/中原文雄 文/松本正行

阪神高速・阿倍野入口の近くに、高さ6メートルにもなる大きな碑があります。「上方演芸発祥之地 てんのじ村記念碑」(写真上)で、1977(昭和52)年に芸人や地域住民の有志によって建立されました。終戦後しばらく、この周辺には多くの芸人が暮らしていました。最盛期には400人にものぼったともいわれます。ミヤコ蝶々、海原お浜・小浜、夢路いとし・喜味こいしなど、上方演芸史を彩る人々もその中にいました。
今はわずかに残るのみですが、かつては安普請の長屋がずらりと立ち並んでいたそうです。新世界はもちろん、道頓堀や千日前にも歩いて行ける距離。いつしか演芸を斡旋する事務所も集まります。金のない芸人にとってはこれ以上ない場所だったわけです。
作家・難波利三は、そこで暮らした人々への取材をもとに小説『てんのじ村』を執筆、1984(昭和59)年に直木賞を受賞しました。小説ですから脚色はあるものの、当時の村の雰囲気がよく伝わります。読み継がれてほしい「大阪本」の一冊といえるでしょう。
その「てんのじ村記念碑」から東に進んだところにあるのが黒龍大神です。写真下でもわかるように上町台地の西の崖に位置し、良質な水が湧き出ていたとも伝えられています。小さな祠ですが、いまも月例祭が行われるなど地元の人の信仰は篤い。てんのじ村の住民も芸道祈願に訪れていたことでしょう。

中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。
松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。
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