職業:缶詰製造業
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫

まだ、レコードはじめ録音技術が発明されていない時代。
いろんな商売に手を出すも、全てうまくいかない男が、最後に知恵を絞り出したのが「声のかんづめ」を製造し販売することであった。
有名人や人気者の声を、缶の中に封じ込める。缶切りで蓋(ふた)を開けると、歌や台詞(せりふ)が流れ出る、というものだ。
最初は珍しいので飛ぶように売れたが、一度だけしか聞けないので不評を買い、大失敗に終わる。(作・三代目桂文我)
缶詰が考案されたのは、日本では江戸後期に当たる。
ナポレオンⅠ世の懸賞に応募して見事に栄冠を射止めたのが、フランスの料理人アペールである。缶詰の原理を発明し、食品の保存が画期的に長期化した。後に保存食品製造所が建設され、本格的に操業を開始した。
1810年には、イギリス人のデュランドもブリキ缶を使用する方法を考えて特許を取った。これが現在の缶詰の原点となる。その後、同じイギリス人のドンキンが世界で初めての缶詰工場を建設した。
日本では、1871(明治4)年に、本家のフランスより製法を学び、鰯(いわし)の油漬の缶詰を発売して業界の第一歩を切った。
現在の製法は、まず原料を調理する、缶に詰める、脱気する、密封する、さらに加熱の上で殺菌、という過程を経る。
密封までは同じだが、その後に加熱と殺菌をしないものを「缶入り」と称して缶詰と区別する。
当初は、肉・野菜・果物のみであったが、料理したものや飲料水などにも及び、その範囲は広がる一方だ。この噺のように、どこどこの空気や臭いといった、“怪しい缶詰”も現われている。
輸送に便利で取り扱いが簡単なので経済的である、加工中に栄養面の損失が少ない、などの利点もあり、地震や災害の折の保存食として価値が高まっている。
缶の材質は、ブリキやアルミが主流であるが、ガラスを用いた瓶(びん)詰も多用されている。これらは、ジャム・酢漬・佃煮などに用いられる。
と、ここまで部屋に“缶詰”になって、この稿を書き上げた。
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