落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
夜空を一瞬にして花畑に染め上げる打上げ花火、川面で繰り広げられる仕掛け花火。花火師が精魂こめた技で楽しませる花火大会は全国各地で行われるが、とりわけ有名なのは1733年に始まった江戸・両国の川開きの折の大会だ。墨田川に架かる両国橋を中心に、花火問屋鍵屋と玉屋が妍(けん)を競う。打ち上がる度に、「鍵屋あ」「玉屋あ」と喚声を上げて絶賛する。
この2軒の花火問屋は、徳川家康の出身地三河で創業し、家康の招きで江戸に移住した老舗である。
川開きの最大行事である花火大会の真最中、両国橋の上は人でごったがえしていた。その人ごみの中を、桶の箍(たが)を作る職人が、商品の箍を持って通りかかる。人に押されたはずみに箍がはずれ、武士の笠をはねとばしてしまう。
恥をかかされたと、武士は「手討ちにする」と怒る。平あやまりするが許してくれそうもない。覚悟を決めた箍屋は、武士の刀を奪い、「侍だと思っていばるな!」と横に刀を払うと、武士の首がポーンと宙に飛んだ。まわりの見物人、良くやったとばかり「たがやあ」。
『たがや』と題する東京の古典落語である。箍屋の印象が強い噺だが、ここでは花火師に注目したい。
花火には、家庭で楽しむ玩具花火もある。これには、吹き出し花火・線香花火・ねずみ花火・かんしゃく玉などの種類がある。
中国の宋時代(960~1279年)に始まった花火は、14世紀後半にヨーロッパに伝わり、16世紀の鉄砲の伝来直後に日本にも到達した。江戸期に盛んになり、技術の急速な進歩と日本独自の技法の発達を見せた。
火の粉・火花・煙・音を同時に楽しむ芸術の「花火」が、法律用語では「煙火(えんか)」という味気ない言葉に変わる。
花火への点火は、火傷(やけど)と隣り合わせの花火師の最大の役割であったが、現在ではコンピューターが代行している。それにつれ、業界の女人禁制が解けた。“火遊び”は、男も女も同権だ。
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