落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
有名大学に入学するにも、スポーツ界のメダリストになるにも、幼少期から“指南所”に多額のお金を注ぎ込まなければならないのは、古今東西変わらぬ摂理だ。
落語の中には、欠伸(あくび)の仕方を教える所まで登場する。『欠伸指南』と呼ばれる上方落語である。指南とは方向を指さして導くことから「教え導くこと」「教え授けること」の意に使う。そこから、今日風には塾、稽古場、教室、レッスン所とでも言おうか。
三味線・浄瑠璃・書道など何をやっても長続きしない男が、新しく出来た「御欠伸指南所」で欠伸を教えてもらうことになる。1人では恥ずかしいので、嫌がる友人を誘い、側で見ているだけでよい、との約束で連れていく。さっそく指南が始まり、四季折々の欠伸、もらい風呂をする時の欠伸、将棋を指す折の欠伸など、様々な態様の欠伸を習う。
傍らで見ていた友人、「教える方も、教わる方も、何やってるねん」と思わず欠伸をする。それを目ざとく見つけた先生、「お連れさんは御器用じゃ。側で見ているだけで覚えなさった」。
欠伸は、眠い時、退屈な時、疲労した時などに、血液中の酸素が不足したため、それを補充しようとして起きる吸い込み作業である。ちなみに噯気(おくび)は胃の中に溜まったガスが口外に出ることで、「げっぷ」とも呼ぶ。
ところで、あなたの恋をしている相手が次の生理現象を催した場合、どれを許し、どれで恋が冷めてしまうでしょうか。一度考えてみて下さい。屁(へ、ひ)・曖気(おくび=げっぷ)・欠伸(あくび)・吃逆(しゃっくり)・嚏(くしゃみ)・咳(せき)・歯軋り(はぎしり)の7項目である。
「芸人は欠伸一つで瀕死する」の川柳通り、芸人に限らず物事を発する者にとって、受け手の欠伸は致命的になる。このコラム、欠伸なしで読めました?
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