落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
連載3回目ともなると、読者の叱咤激励の声が聞こえてくる。「もひとつやな」「おもろない」に混じって「色気がない」の声があった。そこで、今回は一人娘の婿を捜す父親の涙ぐましいドラマをお届けする。題して上方落語『植木屋娘』の一席である。
一人娘のお光になんとか良い婿(むこ)をと、植木屋の父は日々思い悩む。
字が書けない植木屋は、近所の寺の修行僧・伝吉に伝票の清書などを手伝ってもらっていた。この男に白羽の矢を立て和尚に掛け合うが、「武家の跡とりで、寺で預かっているだけだ」と断られる。そこで一計を案じた。2人だけにすれば、娘と伝吉は理無(わりな)い仲になるだろう、そうすれば伝吉は婿養子になると考え、その機会を与える。計算通り2人は愛し合い、お光は妊娠する。
勝ち誇った植木屋が、和尚に談判する。和尚が「伝吉よ、責任を取って婿養子に行きなされ」と諭すが、伝吉は首を縦に振らない。「なぜじゃ」と和尚が語気を強めると伝吉「商売が植木屋です。根はこしらえものかと存じます」。
伝吉は、植木屋の策略を見抜いていたのである。伝吉とお光は、歌舞伎『八百屋お七歌祭文』の吉三(きちざ)とお七をなぞらえている。
植木屋という職業は、自らも植木職人だが、若い衆を雇って、果樹・茶・桑・庭木などを植樹したり、剪定(せんてい)したり、樹木の売買をする職業である。
剪定とは、枝の刈り込み(整枝)、新しい梢(こずえ)の先端の摘み取り(摘心)、摘芽、摘葉、断根などをすることだ。また植木屋は樹木の栄養と生殖を保つ。効率の良い受光で枝葉の強化から袋掛け、人工授粉、施肥、薬剤散布、収穫まで担当するなど、その仕事の範囲は広い。現代でも植木職人は重宝がられている。
直線上または円周上に等間隔に植えられた木の本数と間隔と全体の長さのうち、2つを知って残りの1つを求める計算の方法を「植木算(ざん)」と言う。この場合、植木は等間隔に並んでいなければならない。「植木等(ひとし)」と言うからだ。このシャレ、分からないだろうなあ。
#うえまち台地 #上町台地 #大阪市 #落語 #職業 #植木屋娘