落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
15文しか持っていない男が、16文の屋台のそば屋を捕まえる。「当たり屋」という屋号は縁起が良いとか、蒲鉾が厚く切ってあるとか、出し汁が美味いとか、さんざんお世辞を言った後、巧みに1文ごまかして去る。
それを見ていた男、全く同じ方法で1文儲けようと、別の日に別の屋台のそば屋に挑戦するが、行く時間を間違えたため、結局3文損をする。
中国や朝鮮から伝わったそば(蕎麦)は、そば粉を湯で溶いた「そば湯」と、そば粉を熱湯でこね、餅状にして醤油をつけて食べる「そば搔(が)き」と、明治期に朝鮮の僧・元珍により伝えられた「そば切り」が、主な料理法だ。
今日では、圧倒的に「そば切り」が多い。一番粉使用の白い「更科(さらしな)」系と二番粉使用の黒い「藪(やぶ)系」の2通りがある。
「そば切り」にも、笊(ざる)や簀の子(すのこ)に乗せる「ざるそば」と、蒸篭(せいろ)に盛る「もりそば」がある。明治期より、前者は細かく刻んだ海苔(のり)を振るが、後者は振らない。
また、そば切りでゆがいた残り湯も「そば湯」として客に供する専門店がある。
「お側(そば)に参りました」と、近隣に配る「引越しそば」や、「これからも細く長く生きたい」と願い大晦日に食べる「年越しそば(晦日そばとも言う)」など、けじめの折にそばを食べる。
そばは、仏教で言う精進料理の中核をなすものであり、“そば文化”とも言うべき一つの論理がある。同じ麺類でも、饂飩(うどん)に一家言持つ人は、あまり見受けられない。
「年越しそば」は、元日からの御節(おせち)料理を作るのに忙しく、手が廻らないのでそばですませる要素も強い。「宵寝して年越蕎麦に起こさるる」という水原秋櫻子の句は家庭で食べる派の句。反対に谷口八星の「暗がりの南座隣り晦日そば」は、「顔見世興行」観劇後の外食派の句である。
そばの話はキリがないので、これで止める。
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