職業:小間物屋
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
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背負い(しょい=行商)の小間物屋の男、上方へ買付けに行く途中、箱根の山中で江戸一番の小間物屋の主人を助けるが、主人が死んだため男が主人と間違えられてしまう。
未亡人になったと思った男の女房は、男のいとこと再婚してしまう。そこへ上方から男が帰ってきたので、3人の間に争いが起きる。
大岡越前守の裁きとなり、越前守は、女房といとこは今のまま夫婦を続けよ、男は助けた豪商の未亡人と結婚して3万両の身代を継げ、と名判決を下す。
喜んだ男「御恩は生涯背負いきれません」と礼を言うと越前守「今日からは、もう背負うには及ばぬ」。
小間物屋又は小間物店(みせ)は、櫛・笄(こうがい)・簪(かんざし)・楊枝・紙入れ・煙草・化粧品などの、主に女性向けの日用品の細々とした物を売る商売で、江戸期には“背負い”、つまり各家庭を廻る形態が主流だった。
小間物とは、高麗(こま。こうらい=朝鮮半島にあった王朝)からの舶来物とする説と、細々とした物という説があって決着を見ない。
小間物屋に対比する商売として、荒物(あらもの)屋がある。こちらは、箒(ほうき)・や塵取(ちりと)り・笊(ざる)・束子(たわし)などの家庭用品を扱う店である。
これら2つの商売は、今日では雑貨商の名で扱う。
女性用品を扱う関係から、良家の婦女子や屋敷の女子衆(おなごし)を相手にする。世間のうわさ話や芝居の評判などを提供しながら商品を売る。中には良からぬ小間物屋もいて、女性向きの秘具秘薬を売りつける輩が存在した。
「小間物屋さんお前のは高かろう」
の川柳は、秘具の張り形が雁高(かりだか)と、値段が高いが掛けてある。
「かんざしや櫛やへのこを出して見せ」
と、そのものずばりの抜き身を露出する“困”った者までいた。
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