うえまち教室㉑ 学校探訪(20)特別編 2016年5月号

おおかみ学童クラブ 保護者会 富田晃彦 氏に聞く
20回目は特別編として、中央区のおおかみ学童クラブを訪問。子どもを通わせる保護者であり大阪市学童保育連絡協議会長も務める富田晃彦氏に大阪教育大学教授の森田英嗣氏が話を聞きました。
安心できる放課後の〝家〟 地域に
富田晃彦氏 学童保育は、共働きや一人親家庭の子どもたちの放課後の生活を守る場所。親が仕事から帰ってくるまでの間、子どもたちが集団で毎日遊び、生活しています。
1997年、児童福祉法に学童保育が位置付けられ、2012年の「子ども子育て支援法」成立に伴い市町村が学童を設置する義務を負うことになりました。14年に設備および運営の基準、15年に保育内容を含めた指針が出され、全国の自治体では、学校の空き教室を利用して行政主導の学童保育を行う例が多くなっています。 一方、大阪市内の学童の多くは民設民営で、保護者が主体となって運営されています。これはよそにはない特色です。
全国初の本格的な「学童保育」は大阪市で始まりました。1950年代、働く父母たちが「子どもを鍵っ子にしたくない」「安心して働き続けたい」と自ら場所を確保し、指導員を雇い、留守家庭の子どもたちの帰る家をつくっていきました。それが始まりです。公の制度が後から追いつき現在の形になりましたが、当初は必要に迫られて市民が自力で立ち上げた。 その精神が今も受け継がれているのです。
他の自治体と異なり、開設場所の多くは地域の民家やアパートなどです。保護者が負担する月1~2万円の保育料と市からの補助金で、家賃や指導員の給料を賄っています。経営は非常に厳しい状況です。
しかし、長年培ってきた保育内容には自信があります。日々の活動内容は、指導員と保護者会の話し合いで取り決めたもの。「子どもにこんなふうに育ってほしい」という親の願い がそのまま保育に組み込まれているのです。
――民設民営で当事者である親たちが共同で運営してきたという歴史は素晴らしいですね。
私たち親子が参加している「おおかみ学童クラブ」は、中央区唯一の学童保育です。近隣の3小学校から1~6年生30人以上が参加する大所帯です。
学校が終わると、子どもたちはそれぞれ学年ごとに「ただいま」と帰ってくる。着替えて一息つくと、まず宿題。3時を過ぎると楽しみのおやつです。指導員と子どもたちが当番でおやつを用意します。遊び場所は近所の公園で、ドッジボールや鬼ごっこなどでひたすら遊びます。
けがやけんかは絶えませんが、自分たちで決めた保育内容なので文句を言う親はいません。屋内でもオセロやトランプ、将棋のほか、こま回し、けん玉など遊びは尽きません。
夏には親子キャンプや川遊び、運動会、子どもたちが計画した冬合宿や餅つき、地域の祭りへの参加など年間を通してさまざまな行事があります。
子どもたちは仲間と行事に取り組む中で協調性を養い、自主性や責任感を身に付けていきます。
親は子どもを預けっぱなしにせず、わが子が通う学童の運営に責任を持つ。親たちも参加する「共同の子育て」の姿勢を大切にしています。
――大阪市は92年から、全児童を対象にした「児童いきいき放課後事業」を実施しています。夕方6時まで子どもを預かっていますが、学童との違いは何ですか。
全ての小学校の空き教室で放課後実施しているのが「児童いきいき放課後事業」、いわゆる「いきいき」です。放課後、遊びやスポーツを通して児童の健全育成を図るのが目的で、文部科学省の管轄事業です。
一方、学童は厚生労働省の管轄で、夫婦共に働く留守家庭の児童を対象にして保育をしています。
学童は夜7時まで預かり、年間を通して開設日数が多い。「いきいき」は必要な時だけの参加ですが、学童保育は毎日継続して同じ仲間と過ごします。
「安心して過ごせるもう一つの家」とも言えるでしょう。学校とはまた違った環境で、地域に根付き、何十年も生きてきました。ご近所の方も、子どもが騒いでも「生活の音」として温かく見守ってくださる。本当にありがたいことです。

――子育てを通して子どもも親も地域に入り、生きる力を育んでいく。地域の一部としてある学童だからこそできる、こうした活動は、留守家庭の子どもだけでなく全ての子どもに体験してほしいことですね。
親の就労の形に関わらず、全ての子どもたちが「地域の中で放課後楽しく元気に過ごす」まちになってほしいと願っています。
子どもたちはやがて、いろんな人と関わりながら地域社会で生きていくことでしょう。犯罪や交通事故など心配は尽きませんが、もっとたくさんの大人が関わり、子どもがまちで存分に遊べるようにしていかなければなりません。
学童保育の保護者会が長年培ってきた保育のノウハウが、そんなまちづくりのお役に立てたらと思っています。
先日、地域のお寺のお花見会で子どもたちが自作の歌を披露しました。その歌詞の一部をご紹介します。 〈別掲〉
おおかみ学童クラブ
中央区神崎町2‐18松田ビル2、3階
1984年設立。中央小、南大江小、中大江小の児童30人以上が通う。下校時から夜7時までと土曜、長期休み期間も開設。クラブの名前は学童の黎明(れいめい)期に、ある女の子が、一致団結してという意味で動物のオオカミを提案し名付けたもの。
大阪市内の民間の学童保育は昨年度、106カ所2700人。