所在地:大阪市住吉区住吉2丁目
写真/中原文雄 文/松本正行
大阪生まれのノーベル賞作家・川端康成は、幼いころに両親を亡くし孤独な心を抱えていました。その彼が幼心に覚えているのが母に手を引かれて反橋(太鼓橋。写真上)を渡った情景。そして短編『反橋』に次の一節を書き加えたのでした。
「反橋は上るよりもおりる方がこわいものです」
川端が描いた当時、今のような階段はなく、もともとはつま先をひっかける穴があっただけだった、といいます(1955年=昭和30年に設置)。ですから、彼が書くように恐怖を感じてもおかしくはありません。それだけに、この橋を渡るだけで「お祓い」になると人々から信じられたようです。
境内に600基以上もある石灯篭も人々の思いが込められたものです(写真下)。荒波を越えて各地に繁栄をもたらした北前船の人たちを中心に、さまざまな業界の人が「航海の神」である住吉さんに安全を祈願し寄進しました。なかには12m近くに及ぶものもあります。この石灯籠群は「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」として日本遺産にも認定されています。
他にも、初辰参りなど様々な民間信仰が住吉さんでは見ることができます。上町台地の根っこは、古代から続く日本屈指の「信仰の聖地」といって過言ではないでしょう。
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中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。
松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。
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