阪大リーブル 71
『小説家、織田作之助』
斎藤理生 著
1913年、大大阪時代の大阪、生田玉前町に生まれ、法善寺横丁を舞台とした『夫婦善哉』のほか、数々の名作を残した織田作之助の、代表作から隠れた名作までを丁寧に読み解いた一冊。
目次
序章 織田作之助とは誰か
大阪の作家(?)/無頼派・流行作家・実験小説家/本書のねらい
I 代表作を読む―形式の工夫
第1章 「系譜小説」と語りの方法『夫婦善哉』― 『夫婦善哉』
「大阪を主題にした小説」と「系譜小説」/系譜小説の流行/方法としての反復/列挙と加速/要約と省略/会話文と地の文との融合/〈夫婦〉の姿ーーくり返しの向こうに/『夫婦善哉』の位置
第2章 敗戦大阪の風景と戦中戦後の連続性―『世相』
『世相』の読まれかた/作品の構成/〈白〉と〈赤〉/くり返しの物語/ずれる戦後/『世相』の古さと新しさ
第3章 方法としての坂田三吉―「可能性の文学」
端歩と坂田と作之助、坂田に重なる「私」①『聴雨』、坂田に重なる「私」②『勝負師』、一九四六年の坂田と「可能性の文学」、「可能性の文学」のしくみ、可能性の坂田三吉
II 作之助の〈器用仕事〉―先行作品の換骨奪胎
第1章 『近代大阪』のサンプリング―「馬地獄」
作之助の小説の作り方/「馬地獄」の概要/『近代大阪』の寸借/両作品のちがい/サンプリングする作之助
第2章 笑い話のリミックス―『人情噺』『俄法師』『異郷』
蛍・電球・ジュリアン/「首の切損じ」の変奏/『人情噺』と『耳袋』/『俄法師』と落語または『耳袋』/『社楽』の場合
第3章 オマージュとしての一人称―『天衣無縫』『勧善懲悪』
織田作之助と太宰治/一人称小説の試み/『天衣無縫』の語りのしくみ/『勧善懲悪』の語りのしくみ/太宰治『皮膚と心』『きりぎりす』とのつながり/両作家の戦後の読書
第4章 大阪・脱線・嘘―『アド・バルーン』
『アド・バルーン』と「大阪」/脱線する語り/宇野浩二と「大阪色の話術」/「嘘」としての語り
III 新聞小説での試み―エンタメ×実験
第1章 銃後の大阪―「大阪新聞」と『清楚』
織田作之助と新聞小説/戦時下における新聞小説/『清楚』の構成/「大阪新聞」のなかの『清楚』/単行本『清楚』への改変
第2章 戦時下の新聞小説への諷刺―「産業経済新聞」と『十五夜物語』
敗戦直後の新聞小説/『十五夜物語』の構成と「作者」/先行する小説とのちがいーー吉川英治作品を中心に/夢想判官の相対化/敗戦直後の紙面のなかで
第3章 記事・広告との化学反応/新聞小説の小説―「京都日日新聞」と『それでも私は行く』
『それでも私は行く』の概要/京都日日新聞との関係/「小田策之助」登場の背景と効果/主人公の後退/「現実」を描く困難
第4章 復員兵と闇市―「大阪日日新聞」と『夜光虫』
新興地方夕刊紙「大阪日日新聞」/『夜光虫』の概要/復員兵であること/語り手の前景化/「偶然」の射程/「大阪日日新聞」における小説と紙面との対応/作家と新聞社
第5章 先鋭化する実験―「読売新聞」と『土曜夫人』
新興地方紙から大新聞へ/『土曜夫人』のしくみ/『土曜夫人』と新聞
終章 作之助没後の世界で―1947年前後の〈小説の面白さ〉
没後の評価ーー追悼文と〈哀しみ〉/「虚構小説」「ウソ派」「虚構派」/「新戯作派」と〈小説の面白さ〉/「中間小説」の時代ーー〈小説の面白さ〉とメディア/戦場の記憶と「無頼派」
凡例・参考文献
【織田作之助】 1913 (大正2)年10月26日、現在の天王寺区(当時の南区)、生玉前町で生まれ、現在の生魂小学校(当時の大阪市立東平野尋常高等小学校)に入学。上町台地で子ども時代を過ごした彼の作品には、大阪人にとってなじみの深い場所がたびたび登場し、当時の町の様子を伺い知ることができます。
現在、口縄坂には、『木の都』の一節を刻んだ文学碑が建っています。
また、生國魂神社の敷地内には織田作之助の像が立ち、年に一度、彼を偲び「織田作祭り」が開催されています。