職業:猟師
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
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病弱な体に効果があると聞いて、男は池田(大阪府)の山奥まで猪の肉を買いに行く。
新鮮なものほど体に効くと助言されている男は、3日前に捕ったものでは納得しない。猟師は仕方なく男を連れて山の中に入り、1頭の猪を仕留める。
男が、その猪を「これ新しいか」と疑うので、猟師は銃で猪の尻を打つ。仮死状態だった猪は、その衝撃で走り出す。それを見て猟師「客人、このとおり新しい」。
山リョウシは「猟師」、海リョウシを「漁師」という漢字で区分する。
猟師には2種類あって、個人で狩猟する場合と共同で作業する場合がある。個人では、鳥もち・罠(わな)・弓・猟銃などを使って、鳥類や小動物を対象にする。必ず犬を伴い、その協力によって相手を捕える。
共同での捕獲対象は、熊・鹿・猪などの大型なものが多い。東北地方とくに秋田県では、「またぎ」と呼ばれる20人ぐらいの集団が存在する。彼らは、共同生活を送り、スカリと称する頭目を中心に規律ある行動をしながら狩猟をしている。
その行動の骨格は、山の神へのさまざまな儀式、狩猟期間の厳しい禁忌(きんき=タブー)、獲物の分配法、などである。
彼らの間には、「山言葉」と呼ばれる、いわゆる隠語が80語ほど存在する。いくつかの例をご紹介すると、米のことを草の実、水をワッカ、狼をやせ、熊を黒毛又は山の人、犬をセタと言い換える。
これらは、アイヌ語からの借用が多いとされる。獲物に感づかれないように、彼らだけの特有の呼び方をしたのだという。
山言葉は部外者に知られぬよう、絶対に秘密とされた。それが、より一層「またぎ」を神秘的にしている。
老人の猟師の哀感を歌った春日八郎の名曲『山の吊橋』を、ぼたん鍋を囲みながらぜひ唄って欲しい。猪肉が一層うまくなるはずである。
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