落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
家主(いえぬし)の子供が、砂いじりをしていて黄金(きん)の大黒を見つけた。縁起が良いと、家主は店子(たなこ)を招待して宴会を開く。宴もたけなわになって、店子の一人が、「豊年じゃ豊年じゃ、米が百で3升じゃ」と囃し立てる。それを聞いていた大黒が外に出ていこうとするので、家主が止めると、大黒「米が安くならんうちに、足の下に踏まえている2俵を売りに行くのじゃ」。
家主は”やぬし“とも読む。貸家の持主のことである。大家(おおや)とも称する。ところが、大屋と表記を違えると、貸家の取締りや世話をする、今日のマンションの管理人の意味になる。
江戸期の大家や大屋は、貸家の管理だけに納まらず、貸家人が役所に届出をする時は、必ず同伴しなければならず、訴訟を起こす場合にも承認が必要とされた。いわば、弁護士や税理士のような存在であった。
家主(大家・大屋)と対比する言葉は店子である。店(たな)には、商品を売る場所、商家のことと貸家の意味がある。だから、店子は借家人を指す。店借(たなかり)という表現もある。
「大屋と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」という言葉があるように、親子のような一体感、連帯感でつながっていた。
また、中にはこんなこともあった。まず、江戸川柳をご紹介する。「後家の世話しすぎて大屋疑われ」というものだ。
店子の中には後家、つまり未亡人も居たであろう。その女性に、大屋が親切にしてやっているうちに懇(ねんご)ろになった。昔風に言えば理無(わりな)い仲になってしまった。噂はすぐに立ち、町内で知らぬ者がいない状態になった、という意味だ。ひょっとしたら、”業務上横領“で職を解かれたかも知れない。
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