落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
大阪市中央区を流れる長堀川には、ヌルマという魚がたくさん棲んでいた。誰も食べなかったが、この川沿いにある料理店「菱又(ひしまた)」の主人が蒲焼(かばやき)にして、たまたま喧嘩(けんか)の仲裁の席に出したところ、口の肥えた2人が絶賛したのが契機で、人々が注目するようになる。
店の内儀(ないぎ)の人気にあやかって、ヌルマをオナイギに掛けてウナギと改名。漢字は魚へんに店名から日四又(ひしまた)という字体にした。さらに、町名も内儀の名前“谷”に因んで、鰻谷と呼ばれるようになる。
鰻料理と言えば、まず蒲焼がある。鰻を縦に串刺にし丸焼きした形が蒲(がま)の穂に似ているので蒲焼と言うようになった。タレを付けずに素焼し山葵(わさび)で食べる白焼もある。
この蒲焼を米飯の上に乗せると鰻飯。これを丼に入れると鰻丼。重箱なら鰻重となる。大阪では、蒲焼を飯の間にまぶすところから「まむし」とも称する。
名古屋名物の櫃(ひつ)まぶしは、鰻を細かく切り飯にまぶした料理で、1杯目はそのまま、2杯目は薬味を乗せる、3杯目は薬味と一緒に茶漬けにするという三様の味わい方が出来る。これは商標登録のある料理名だ。
他にも、玉子焼の間にはさむ鰻巻(うまき)、蒲焼を細かく切り、刻んだキューリと三杯酢で和えた鰻作(うざく)、にぎり寿司にもなる。
京都では、間口の広さで税金を徴収したところから、間口を極端に狭くし奥行を深くした建物が多い。これを「鰻の寝床」と言う。また物価や温度、人の地位などが、見る見るうちにのぼることを、「鰻登り(鰻上りとも書く)」と表現する。鰻が水中で身をくねらせて垂直に登ることから例えられた成句である。
日本では、西太平洋のミクロネシア北部に位置するマリアナ諸島沖の水深200mの浅瀬に産卵された稚魚が成長し、川に登って来たものが天然鰻として珍重されている。静岡県伊東市の浄の池や、和歌山県西牟婁郡の富田川の鰻は、天然記念物に指定されている。
と、鰻だけに捉え所のない話でした。
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