落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
壷が買いたい男、知恵のまわる先輩と一緒に瀬戸物屋に行く。1荷(か)の壷を3円で求め、一度店を出るとすぐ引き返す。もっと大きい2荷の壷が欲しい、2荷はいくらかと問う。番頭が6円だと答えると、1荷の壷を3円で引き取らせ、先程支払った3円と、この引き取ってもらう3円の壷とで6円になるから、この2荷の壷をもらっていく、と不思議な理屈で、番頭を悩ませる。算盤(そろばん)で何度も計算する番頭の姿を見て男「これがこっちの思うツボや」。
瀬戸物とは、陶磁器の総称のように言われるが、もともと愛知県瀬戸市で焼かれた陶磁器のことを指す。江戸期に大流行したので、代名詞のように使われる。瀬戸市と言えば、将棋の天才藤井聡太の出身地だ。
荷物を数える呼称には、“荷”という用語を用いるが、あまり聞きなれない。壷の語源は、口が細くつぼまっていることからきている。灸をすえる場所、経穴(けいけつ)のこともツボと言う。
欧州や西アジアでは、農耕が始まった新石器時代にすでに壺が存在した。中国でも黄河の中流域で、色彩の付いた文様のある壷が、農耕文化とともに発達した。
わが国では、縄文時代の前期より出現する。土師器(はじき)と須恵器(すえき)の2種があって、前者は古墳期から平安時代に作られた赤褐色の素焼のことで、杯(つき)・高杯(たかつき)・坩(つぼ)・甕(かめ)・甑(こしき)・盤(さら)などがある。
一方の須恵器は、古墳期後半から出現した青黒色をした硬質の土器のことである。新羅(しらぎ・朝鮮)よりやってきた帰化人によって伝わった。壷・甕・椀(わん)・杯・高杯・器台などがある。
旧暦の10月、新茶の壷の封を切って茶会を催すことを「壷の口を切る」と言う。要点を突き、勘所を押えていることを「壷に嵌(は)まる」と表現する。この文章、果たして読者の“壷に嵌っている”かどうか、判断を待ちたい。
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