落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
講釈師に恋人との仲を邪魔立てされた男が復讐を企てる。友人に相談すると、講釈をしている時に、胡椒を火にくべて口演が出来ないようにしたらよい、と教えられる。
男は胡椒を買いに行くが、売り切れていたので替りに唐辛子を手に入れる。釈場の最前列に陣取り、火鉢にくべる。計算通り、講釈師はくしゃみを連発し、口演不能となった。
ほとんどの客は帰ったが、男と友人だけが残っているのを見て講釈師「私になにか故障がおありか」と問うので、男「胡椒がなかったので唐辛子をくべた」。
現代では「講談師」と呼ばれるが、江戸初期に、徳川家康の前で軍談(軍記)を講釈付きで読んだのが始まりとされる。そこから、講釈師又は軍談師と呼ばれた。
軍談を修羅場読みとも言うが、やがて評定物(お家騒動)、武家物(武術の修行)、仇討物(例「忠臣蔵」)、侠客物(博奕打ちが主人公)、白浪物(盗賊)など、演目を広げていく。
講釈を専門にする寄席を釈場と呼んだ。演者が高座の前に置く机を釈台と言う。落語では見台、浪曲は演台と呼び分けている。また演ずることを、講談は“読む”、落語は“話す”、浪曲は“語る”と表現する。
落語と同じように、上方講談と東京講談があり、東西で大きな特色を見せる。上方は豊臣秀吉の一生をオムニバス風に描いた「太閤記」と、秀吉死後の2つの陣で豊臣家が滅亡する「難波戦記」が中心になる。ほとんどが旭堂の亭号を名のっている。一人だけ玉田を名のる人がいるが、旭堂門下である。
東京講談は、忠臣蔵が主役になる。刀傷松の廊下から討入りまでの物語「義士正伝」、エピソード集の「義士外伝」、さらに四十七士それぞれを主人公にした「義士銘々伝」の3シリーズで構成されている。一龍斎、宝井、神田、田辺、桃川、田ノ中などの各一門がしのぎをけずっている。
「講釈師見てきたような嘘をつき」の川柳が残るように、あらゆる現場にいたかのように、事件を克明にリポートする。現代のテレビのリポーターと好一対の職業である。
※写真提供=此花千鳥亭(此花区にある大阪市内唯一の講談の定席)
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