職業:僧侶
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
僧侶は聖職者である。聖職者とは、知徳に秀れ事理に通じている人のことで、他に神官、司祭(カトリック)、牧師(プロテスタント)を指す。
僧侶は、出家した人が就き、僧、坊主(僧の家の主人)、住職(住持職の略で寺の首長)、和尚(特に禅宗で呼ぶ)、院主(禅宗で住職の代行者)、法師(仏法の教師)など呼び名は多い。女性の僧は尼僧と称し、尼僧の住家を庵室と言うから庵主と呼ぶこともある。
修行僧は、男性を比丘(びく)、また乞士(こっし)、女性は比丘尼(びくに)。寺で修行中の者は所化(しょけ)。年少の僧は小僧である。
僧侶の妻は、ダイコクと俗称し、大黒もしくは梵妻の字を当てる。妻帯の許されなかった僧侶の苦肉の呼び名であろう。浄土真宗では、坊主に対比して坊守(ぼうもり)と称する。
僧侶は当初は戒律が厳しく、鳥・獣・魚など生ぐさいものは一切口に出来ないし、酒もたしなむことが出来なかった。そこで、馬肉を桜、猪肉を牡丹、鹿肉を紅葉、鶏肉を柏と言い換えて、植物ならよかろうと、妙な理屈を付けたのである。ちなみに、泥鰌(どじょう)は踊り子と呼んでごまかした。酒を般若湯(はんにゃとう)と、インドの高僧の名に置き換えたのも同様の理由による。
言葉が粗暴でぞんざいな八五郎の性格を直してやろうと、隠居は知り合いの住職に頼んで寺に送り込む。
住職は、出家するには、まず頭を剃ることだと嫌がる八五郎を宥め賺し(なだめすかし)丸刈りにしてしまう。
そして法名を「法春」(ほうしゅん)と名付ける。だが、八五郎はこの名前を覚えられないので、紙に書いてもらう。僧になった嬉しさに、八五郎は紙を友人に見せるが、見せられた方も読めない。最初の人は、春日(かすが)と読むことがあるから、ホウカスではないかと判断する。
八五郎が、別の人にも尋ねると、法をノリと読んでノリカスが正しいと主張する。それを聞いた八五郎「そうや。それで剃るなり付けるや」。
オチは説明が要る。頭を剃るなり、すぐ名前を付けた、という意味と、米や麩など澱粉質で作った接着剤の糊(のり)を布に付ける時は、米や麩を板状の物の上で摺りつぶして、それをすぐに布に塗ることと掛けている。
こんな庶民の日常も過去のものになった。
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