職業:質屋
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
質屋(しちや)のことを、大阪ではヒチヤと発音する。看板にも「ひち」と書いてあるので、シチヤでは通用しない。
「質屋て何屋」は、“かまとと”の代名詞である。蒲魚(かまとと)は、「蒲鉾は魚か」ととぼける人のことで、初心(うぶ)の振りをしているが実はすれている、特に女性のことだ。
質と同様に“七”もヒチと発音し、七福神、七面鳥は、ヒチ福神、ヒチ面鳥である。
質屋は奈良期にまでさかのぼる。寺院や豪商が品物を預かってお金を貸したのが始まりだ。鎌倉期に発生し室町期に発達した「土倉(どそう)」が質屋のことで、酒屋が兼業した。江戸期になると、専門の質屋が繫栄し、庶民の重要な金融機関になった。現代では、サラリーマン金融が隆盛を見せて、その影がうすくなった。
質屋に預ける物品のことを「質草」又は「質種」と言う。本来、「質」とは、約束を履行するために保証として預ける品の意味で、今日、担保と呼ばれるものである。人質という言葉も、ここから出ている。
一定の期限に元金と利息を払わないと、預けた品物は「質流れ」する。利息だけを払って期限を伸ばしてもらうことは「利上げ」と言う。
こんな川柳がある。
「かりうどは質屋の使い上手なり」は、かりうど(居候)は質屋の扱いがうまくなるの意である。「待人来たらず質屋へ禿(かむろ)行き」は、遊女も客が来ないとお金に困り、禿を質屋に行かせる。また「無造作なものは質屋の土用干し」は、預かった品を、土用の日に虫干しするが、自分の物ではないのでぞんざいに扱うと皮肉る。
そんな質屋の蔵で発生した珍事件の一席。
大きな質屋の三番蔵に化物が出るとの噂が立つ。旦那が番頭と手伝いの男に寝ずの番を命ずる。その夜、質草の掛軸の一つが動き出し、菅原道真の絵から、なんと本人が抜き出てきた。
通報を聞いて三番蔵にやってきた旦那に対して、道真が口を開く「質の置き主に伝えてくれ。早く利上げをせんと、また流されてしまう」。
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