職業:紙屑屋
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫

紙屑屋が浪人から預かった仏像を武士に売ると、中から50両の大金が出てきた。その金をめぐり、浪人も武士も紙屑屋も自分に権利はないと主張し受け取らない。
仕方なく家主が仲裁に入り、浪人が古びた茶碗を武士に差し出し、その代金として50両を得ることで決着をつける。ところが、この茶碗が珍品で100両の値がつく。又も浪人と武士は受け取ろうとしない。
お互いの正直な気持に心を開いた2人。浪人の1人娘を武士の嫁にし、親しい交流を続ける。
紙屑を拾い、それを売って生計を立てる“紙屑拾い”と、紙屑を買って歩く“紙屑買い”があるが、紙屑屋又は屑屋と呼ばれるのは後者だ。紙屑だけでなく、金属類や衣類などあらゆる廃品が対象になる。現代では廃品回収業と呼ばれる。
各家庭を巡回して回収する方法は現代でも変りないが、他方、自治体による回収システムが完備されていて、回収業者の範囲は極端に狭くなっている。
紙屑は、古川柳によく登場する。その場合、どこか艶(なまめ)いた扱いを受ける。
「紙屑のたまり初めは宝船」の句がある。大晦日の夜に宝船の絵を枕の下に敷いて眠ると、良い初夢を見ることが出来ると伝えられていた。しかし一夜明けて元旦になれば不要になり、新年で初の屑になる、という句意だ。
言外に、姫始(ひめはじめ)に、この宝船の絵が使用されたことを仄(ほの)めかせている。
「紙屑をひろって起きる若夫婦」。あるいは「桜紙二帖(じょう=紙をひとまとめにして数える語)で足らぬ若夫婦」「あら世帯恥ずかしそうに紙を買い」なども同意である。
最後に真面目な話を。
不用になった金属や木製の品、捨てられたポスターのようなものを素材にして作る作品を“廃品芸術”と呼んでいる。戦後に注目されるようになった芸術行動だ。大量消費社会への警鐘を鳴らしている。まさに「捨てる紙あれば拾う紙あり」だ。
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