職業:鳥刺(とりさし)
落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫

木の枝に虫が一匹止まっている。その虫を蟷螂(かまきり)が狙う。その蟷螂を雀が食べようとする。その雀を鳥刺が捕えようとする。
その鳥刺を蟒蛇(うわばみ)が襲う隙を計っている。すると猟師がその蟒蛇を射止めようと鉄砲を撫でている。その漁師の腰に付けた弁当を犬が食べようとしている。
このように、目先のことに気を取られると、ついつい“後に心”がいかないものだ。
鳥刺とは、黐(もち)の木や黒皮黐(くろかわもち)の木の樹皮で作ったゴム状の粘着性がある鳥黐(とりもち)を、鳥黐芋と呼ばれる竹竿に付けて、雀・雲雀(ひばり)・鶯(うぐいす)・目白・頬白(ほおじろ)・鶫(つぐみ)・獦子鳥(あとり)・金糸雀(カナリヤ)といった小鳥を捕える猟師である。
刺すという動詞は、物を突くという意味だけではなく、捕えるという意味もあるので、小鳥を殺してしまうのではなく、生きたまま捕えて売るのが、鳥刺の商売であった。
江戸期には「鳥刺」と呼ばれる遊戯があった。殿様・用人(ようにん・家老の次の重職)・鳥刺の絵札が各1枚、前述した小鳥の絵札が13枚、計16枚の札で遊ぶものだ。
まず殿様の札を持った人が、用人の札を持った人に命令する。すると用人札の人が鳥刺札の人に小鳥を捕えることを指示して遊ぶ、というゲームである。
また、漫才の源流である「萬歳(まんざい)」で、太夫役(ツッコミ)が鳥刺の真似をしながら才蔵役(ボケ)が鳥づくしの唄を歌う芸を、鳥刺と称した。
さらに、鶏肉の刺身も鳥刺と言う。牛刺、馬刺と同意である。
鳥刺と間違えそうな言葉に「鳥追(とりおい)」がある。作物を荒らす鳥を追い払うことを目的とした農村行事の一つで、1月14日と15日の2日間、鳥を追い払う歌を唄いながら若者たちが家々を回るものであった。
編笠(あみがさ)をかぶり、三味線を弾いて歌い金品を得た女芸人のことも鳥追いと呼んだ。
鳩の糞(ふん)や烏(からす)の鳴き声に悩む現代人にとって、鳥刺は是非復活して欲しい職業である。
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