落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽秋夫さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
道具屋と言うと、使い古した道具、つまり古道具を扱う店だ。骨董(こっとう)屋とも言う。中には、稀少価値や美術的な価値のあるものも含まれていて、客にとっては思わぬ掘り出し物を手に入れるよい機会と、愛好者は現代でも後を絶たない。
この道具屋が登場する落語は多いが、中でも有名なのは、これから紹介する別名『道具の開業』と呼ばれる滑稽噺の『道具屋』である。艶笑噺で同名の『道具屋』があるし、上方で『道具屋芝居』、江戸で『道具屋曽我(そが)』と称する芝居噺もあって、ややこしい。
おじの世話で路上に店を出す道具屋を始めた男がいた。男は生来ずぼらな性格で、来る客来る客を応対のまずさで帰してしまう。
少しあせり出したところへ、やって来た客は、古びた笛を手に取り、矯(た)めつ眇(すがめ)つしているうちに、笛の筒に指が入って取れなくなってしまう。男、ここぞとばかり「取れなければ、買ってくれないと困る」と言って、相手の弱みにつけ込み、法外な値段を吹っかける。客は怒って「ひとの足元を見るな!」と抗議すると、男「いや、手元を見ている」。
大阪市中央区千日前の「なんばグランド花月」前から南に伸びる細い道路の両側には、道具屋がびっしり建ち並ぶ。この道を「道具屋筋」と呼ぶが、ここでは新品の道具を売る店ばかりである。
川柳に曰く「十六で娘は道具揃いなり」の句は、16歳になった娘は、嫁入り道具ともう一つの道具も揃ったと喜んでいる、との意だ。「今はもう小便だけの道具なり」は、男性の悲哀を描く。この2句の道具は容易に想像がつこう。
江戸初期に大流行した「道具屋節」という古浄瑠璃の一派がある。大坂在住の道具屋吉左衛門が創流した剛健な語り口の節である。
「骨董飯(はん)」というものもあるが、こちらは五目飯・加薬(かやく)飯・味付飯のことである。
と、この稿を書いて疲れたので伊予の国・松山の「道具温泉」に行こうと思う。それも言うなら“道後”温泉じゃ!
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