落語にはさまざまな職業が登場します。
演芸評論家の相羽さんならではの
切り口で落語国の仕事をみてみると……。
文/演芸評論家 相羽秋夫
湯屋とは、今日で言う銭湯・風呂屋・公衆浴場のことで、料金を取って入浴させる商売である。
飛鳥期(6世紀)に、奈良の寺院で人民救済のために大浴場を設けた。これを「功徳(くどく)風呂」と呼び、湯屋の始まりとされる。江戸期には、男女混浴の頃もあったが、風紀を乱すとの理由で分浴になった。
居候ぐらしの男に湯屋での働き口の声が掛かる。番台(入口に高く設けた見張台)でないと嫌だと言うので、主人は「私の昼食の時だけだよ」と、番台をまかせる。男は喜んで座ると、女の入浴客の品定めを始める。“気の効いた年増女が男に夢中になる。女の家に行き2人で酒を呑んでいると、近所に落雷がある。女が恐がり男に抱きついてくる……”と妄想をふくらませた所で、男性客の「俺の下駄がねえ!」の声で我に返る。
男は「それなら、こちらの下駄を履いて帰って下さい。順々に他のを履いてもらい、最後の人は裸足(はだし)で帰ってもらいます」。
湯屋で働く人で番台を担当するのは、経営者やその家族が多かった。湯汲み・湯番・番頭などと呼ばれた。風呂を焚いたり湯客の体を洗ったりする男は「三助(さんすけ)」と称した。湯屋にいた遊女を「湯女(ゆな)」と言ったが、現代風に表現すれば、ソープランドの女性とでも言おうか。
「浴衣(ゆかた)」は、湯上がりに着たくつろぎの衣類だが、室町期より盆踊りに使用してから、すっかり夏の和服の定番になった。
「湯屋温泉」という奇妙な名前の温泉がある。平安中期に発見された岐阜県の名湯、下呂温泉に隣接する。神経痛や胃腸痛に効用があるので、湯治場として有名だ。
古川柳に曰く。「開帳を裏から湯番拝んでる」。説明するまでもないであろう。落語の主人公が最も欲した光景である。罰当たりめが。