ライター・編集者 松本正行
現在、国立文楽劇場では『仮名手本忠臣蔵』が上演されています(11月文楽公演、24日まで)。ここでも書きましたが、忠臣蔵のもとはこの「仮名手本~」で、実際の赤穂事件が起こってから約50年後(1748年)につくられました。
殿中で刃傷に及んだ主君が切腹、その恨みを晴らすため、家老を中心に家臣たちが仇討ちに及ぶ――といった大枠は赤穂事件と同じです。それに加えて、男女の愛憎や親子愛、嫉妬や金銭欲など人間の心の動きを巧みに織り交ぜているところが、この演目の特長。浅野内匠頭を赤穂の塩にひっかけて「塩谷判官」に(判官は、義経を連想させます)、大石内蔵助を「大星由良助」などとしているのも楽しいですね。300年近くも人気を保つ理由もわかります。文楽にあまりなじみのない人でも、十分楽しめるでしょう。
なかでも今回は四段目の「塩谷判官腹切りの段」が注目です(写真)。4月に大名跡「若太夫」を襲名した11代目豊竹若太夫と、文化功労者となった人形遣いの吉田和生が共演、長丁場の「仮名手本~」のなかでも一番の見せ場をつくっています(通せん場といって、この場面は入退場禁止です)。個人的には、判官切腹のあと由良助一人が舞台に残り、太夫の語りもないなか、人形の動きだけで哀切を表現する「城明け渡しの段」にも強く感銘を受けました。
とにもかくにも、文楽初心者が鑑賞するにはもってこいの演目です。ぜひぜひ、ご覧になってください。
なお、新春文楽公演は25年1月3日から上演されます。第3部の『本朝廿四考』が楽しみです。
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2024/202501bunraku/
筆者紹介:上町台地上にある高津高校出身。新聞社・出版社勤務を経て、現在、WEBや雑誌等で活躍中。NPO法人「まち・すまいづくり」会員。