所在地:大阪市西成区岸里東2丁目
写真/中原文雄 文/松本正行
昔の大阪のメインストリートは御堂筋ではなくいまの堺筋だったことは、ご存じの人も多いでしょう。その名のとおり堺筋は大阪と堺を結んでおり、和歌山まで通じています。そのため紀州街道とも呼ばれ、御三家の紀州藩などが参勤交代で利用し沿道は大いににぎわった、といわれています。
その堺筋(紀州街道)の整備を命じたのは秀吉でした。彼はこの道を使ってたびたび住吉大社や堺を訪れたのですが、途中で立ち寄ったのが天下茶屋。かつてこの場所には、天正年間 (1573~92年)に 楠木氏の流れを汲む芽木家が開いた茶屋がありました(写真上)。ある時、その茶屋の水を使い千利休に茶を点てさせたところ、その味にいたく満足し芽木家に褒美を与えた――。そんなエピソードから「殿下茶屋」あるいは「天下茶屋」と呼ばれた、と伝わります。
実は、第二次世界大戦の前まで芽木家の広大な屋敷と名水の泉も残っていたのですが、残念ながら戦災で焼失。いまも残るのは大きな楠のみで、戦後になって天下茶屋跡を示す石碑と秀吉の像が建てられ、土蔵が修復されたのでした。
天下茶屋で茶を点てたのは利休ですが、彼は武野紹鴎と呼ばれる人物の弟子で、紹鴎から「詫び茶」の精神を引き継ぎました。その紹鴎が茶室を建て隠棲したのが、天下茶屋跡の目の前にある天神ノ森天満宮(紹鴎森天満宮=写真下)です。上町台地の南に、茶道史に残る場所があるのはほんと面白いですね。
中原文雄
1948年生まれ。建築工房日想舎 主宰。NPO法人まち・すまいづくり会員。
松本正行
1965年生まれ。ライター・編集者。NPO法人まち・すまいづくり会員。
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